(前編では「農家民泊」の内容をお伝えしました。後編は私の見てきた修学旅行の模様をお届けします。)
修学旅行の一行は前日に大阪を出発、犀川(さいがわ)でラフティングをし、小谷村のホテルで宿泊でした。
2日目午前中は空中アスレチック(遊具を使った運動)やバーベキューをして、午後にいよいよ松川村役場にやってきました。
役場の駐車場を舞台に、ずらりと並んだ農家さんと生徒たち。“入村式”では校長先生、生徒代表、農家代表が挨拶し、男女別で4、5人1組のグループに分かれます。32の組に分かれ、いよいよ活動開始です。
農作業の内容は、各農家に任されています。
天候により野外だったりハウスだったり、内容も稲作、野菜、果樹の育成から収穫まで多岐に渡りますが、大きな機械を単独で操作させるなど危険なことは禁止されています。
私も大町市の農家に宿泊するチームに同行したので、体験した農作業をいくつかご紹介。
まずは<ブルーベリー畑での防鳥ネット張り>。作業する女子中学生たちは、ブルーベリーが木になる様子を「初めて見た!」 と騒ぎ、<玉ねぎの収穫>をしたチームは、軽トラックいっぱいの玉ねぎと一緒に記念撮影。最初は大人しかった生徒たちも徐々に慣れてきて<畑に藁を敷き詰める>作業は藁を巻き散らして大騒ぎでした。
農家にとっては日常の代わり映えのない作業でも、初めて体験する中学生にとっては驚きの連続。
かくいう私も最近家庭菜園を始めたばかりなので、知らないことばかり。
中学生と一緒に驚いたり、感心したりしていました。
数時間の農業体験を終え、松川村の「すずむし荘」に農家さんの車で向かいます。これも農家民泊ルールの一つで、各家庭の風呂ではなく、保健所の許可を得た入浴施設を使います。
班ごとに点呼をとり、先生による体調チェックがあります。
生徒は先生に「柔らかいピーナッツを初めて食べた」とか「カエル触っちゃったよ」「ボカシって臭いね!」と明るく報告しています。
生徒が入浴中に、旅行会社の添乗員さんにも話を伺いました。
農家民泊は修学旅行で農家体験をさせたい中学校と、
受け入れる自治体と、その間を取り持つ旅行会社の
連携があって成り立ちます。
私の時代と修学旅行の内容が全然違う、と添乗員さんに話すと
「今は体験型が主流です。特に都市部の学校は、
身近に自然が少ないので、田舎暮らし体験が喜ばれます。農家民泊の利用はまだまだ少ないですが、千葉や大阪では取り入れている学校が多いです」とのこと。
「実は同行する先生も一緒に楽しんでいます。農作業は大人にもリフレッシュになるんでしょうね」。
ちなみに生徒が農家にいる間、同行しない先生方は旅行会社の添乗員さんと一緒に宿で待機をしています。
何かあれば生徒のもとに飛んでいくそう。
「夜は先生方と宴会するんですよね?」と私のつまらない質問に「それは大昔の話で、今は一滴も呑まずに待機ですよ」と教えてくれました。
またもや修学旅行のイメージが変わった瞬間でした。
入浴後は農家さんの車で帰り夕飯です。
みんなで配膳するのが約束で、わいわい準備します。
お邪魔したお宅の夕飯は、特別な料理ではないけれど、心のこもった家庭料理が中心でした。
実はメニューの大枠は決まっていて
「豚肉を使ったメイン料理」
「季節の野菜のてんぷら」
「郷土食として各家庭自慢の漬物」
「地元産のご飯」など。
班ごとに食事内容に偏りがないようにするためです。
お米の農家さんだったので、白米が本当に美味しかった!(あ、私もお相伴に与ってしまいました♪)
生徒も何杯もおかわりしていました。自分が収穫した玉ねぎが入った味噌汁を飲んで、その美味しさに驚く生徒も。
ちなみに農家さんは禁煙禁酒が決まりでして、受け入れ側もルールを守ります。
後で先生方に聞いて知ったことですが、この誰かと食卓を囲む体験がとても大事なんだとか。
「自宅の食事が楽しくない生徒はあなたの想像以上にいるんですよ」と先生。
現代の家庭環境では「こ食」(孤食、個食、固食など)の生徒がどうしても多くなってしまうそうで、
「こんなに親切にしてもらっていいのだろうか」と戸惑う生徒もいる、と聞いて少し切なくなりました。
夕食後、宿プログラムというのがあります。
夜のあぜ道を歩いたり、ホタルや夜景を見に行ったりと受け入れ農家によって内容は様々。
私がご一緒した農家さんの家では、みんなで花火をしました。すると女子中学生の一人が
「家の前でこんなことしたら、煙は迷惑だしうるさいって通報されるわー」と楽しそうに花火をしていました。なるほど、花火一つとっても都会では難しいこともあるのですね。
花火をした後、トランプで盛り上がりました。
私も修学旅行に参加してる気分で、このまま泊まりたい! と思ったのですが泣く泣く自分の家に帰りました。
次の朝合流して、朝食後の農業体験を見学しました。
あいにくの小雨でしたが、ハウスのある大きな専業農家では<トマトの芽欠き>をしていました。
農家さんが丁寧に説明します。
なぜ芽欠きが必要なのか、なぜ誘因の麻紐は八の字に結ぶのか、男子生徒たちは素直に聞いて実行します。
「この時期はまだトマトが青いんだね」
「ナスがこんな風になってる!」とまたまた大騒ぎ。
男の子は本当に元気です。
他の農家さんでは<直売所にキャベツを出荷する>作業をしていました。出荷までの作業、値段の付け方など、中学生だけでなく、私もすごく勉強になりました。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、使わせてもらった部屋を掃除して離村式に向かいます。
ここで農家さんは必ず忘れ物チェックをします。忘れ物がとても多いんだとか。
過去に制服のスカートを忘れた生徒がいたというのは、微笑ましい限りです。
離村式は入村式があった松川村役場の駐車場。
来た時と同じく大型バスの前に、班ごとに生徒が並びます。向かい合って農家さんが並ぶのですが、入村式のときとは明らかに違う空気が流れています。
緊張でいっぱいの面持ちだった両者の間に、確かに「家族」のような雰囲気が漂っています。
校長先生のお別れの挨拶が印象的でした。
「皆さん、短いけれど本当に大事な時間を過ごせたようですね。農家さんの親切な振る舞いと、あなた達の感じた心を忘れずにこれからを過ごしてくださいね」
最後は走って農家のおかあさんに抱きつく生徒たち。泣きそうになっている女の子もいました。
名残惜しいけれど別れの時はあっという間に来てしまい、バスが見えなくなるまで見送りました。
しんみりしつつ、農家さんに話を伺いました。
「テレビで田舎に芸能人が泊まる番組があったでしょう。別れ際に泣いたりするけど、あれはヤラセだと思ってた。でも今はその気持ちがよく分かるんです」と農家のおじいちゃん。
うん、私も分かります。子どもたち、あんなに楽しそうだったもの。
別の農家の方は「受け入れは準備が大変。だけど終わってみると、またやりたいって思える。夫婦の生きがいでもあるのよ」という。
農家民泊はボランティアではないので、幾ばくかの収入にもなります。ただ収入を目当てにするほどの金額はありませんし、人を受け入れるホスピタリティがなければこれは務まらない、と行動を共にして実感しました。
農家さんは生きがいになっている方もいるようだが、さて生徒への影響はどんなだろうか。
アルプスあずみの公園の宮田さんに聞いた話では「家に帰りキラキラした目で我が子が話す様子を見て、その変化にご両親が驚くことが多い」んだとか。
過去には修学旅行のあと両親を連れて、再び農家に遊びにきた事例もありました。
進路を悩んでいた生徒が、農業系の高校に行くことを決めたという話もあるそうです。
大町市としては今後、受け入れ農家をより増やすことが目標です。
安曇野市も今年度から33軒が参加し、地域全体で協力体制を充実させていくそうです。
田舎体験が子どもに素敵な変化をもたらすのなら、もっと受け入れが増えるといいですね。
最後に付け加えるのなら、今回誰よりも楽しんでいたのはもしかしたら
(もうお気づきかもしれませんが)私かもしれません。
快く取材に対応してくださり、生徒だけでなく隊員の面倒も見てくださった皆様。
この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました!
<農家民泊関連リンク>
国営アルプスあづみの公園
http://www.azumino-koen.jp/index.php
松川村フォトニュース「農家民泊」
http://www.vill.matsukawa.nagano.jp/100/010050.html
子ども農山漁村交流プロジェクト